Yu : vol.35 徳川恒孝×大畑慶高

徳川恒孝

江戸時代から学ぶ子ども教育

戦国時代から江戸時代に、時代が平和になった時、何がどう変わったのか。徳川宗家第18代当主にお話を伺いました。

時代が平和になり、武の部分から文の部分が重要になってきた。

戦国時代から江戸時代になり、貧乏しているから戦で隣の領地を獲って大きくなろうということが無くなりました。領地が固定されてしまったことで、大名に求められる能力・経営技術は、今までと違うものが求められるようになってきます。時代と共に政治の中で「武」の部分が減り「文」の部分が増えていく。そのバランスが大きく、急速に変化したのが江戸時代の初期です。

時代は「武」から「文」へ大きく変わった訳ですが、その中にある「武士の心」の部分は文化の中にきちんと受け継がれていったのだと思います。戦国時代の侍は字なんて書けなくても構わなかった訳ですが、次第に字が書けないと偉くなれなくなる。そこに儒教の教育が入ってきた。平和になって経済が動き始めると、武家以外の人たちも、字が読めて算盤が出来て、各地方の状況が解ってこないと商売にならない。

寺子屋では先生とこの子という関係で教育されてきた。

江戸時代までの日本の教育は、団体教育ではなく個人教育なんです。寺子屋ではひとりひとりの能力と進路によって教材も進み方も違います。この子は大工さん、この子は魚屋さんと、それぞれが生きていく仕事に役立つ教育を与えていきます。一律に同じ事を習って「あの人は優等生だけど僕はビリなんだ」という話はないんですね。

ゆとり教育をやめてしまったのは日本の大失敗だったのかもしれない。

ゆとり教育について政界財界の方から「あんな馬鹿なことをしたから日本の学力が下がった」と言われますが、全く違うと思いますね。ゆとりの時間をうまく使う力量が教師の側になかったということだけで、やめてしまったのは日本の大失敗だと思っています。

徳川 恒孝(とくがわ・つねなり)
1940年生まれ。
徳川宗家第18代当主(1963年より)。
学習院大学政経学部政治学科卒業。
日本郵船副社長を経て現在顧問。
公益財団法人徳川記念財団理事長 / WWF世界自然保護基金ジャパン理事 / 財団法人東京慈恵会会長 / 財団法人斯文会名誉会長